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| 2016.11.14 Monday () | - | - | - |
映画三昧 『手紙』 を観る
評価:
山田孝之,玉山鉄二,沢尻エリカ,吹石一恵,風間杜夫,杉浦直樹,生野慈朗,東野圭吾,安倍照雄,清水友佳子
(2007-04-27)
 久しぶりに映画のエントリーです。
 きょうもネタバレありです。


 手紙

 東野圭吾の同名小説の映画化。
 主人公に山田孝之をすえ、
 脇に、玉山徹二 沢尻エリカと
 演技力のある若い俳優さんを配置し
 ベテランの俳優さんも実力者を揃えました。
 
 私が観た東野小説の映像化作品は、
 テレビドラマの『白夜行』に続いて2作品目です。
 偶然(じゃないのかも、もしかして)
 どちらも主演が山田孝之くんで、
 影のある、悩みの多い
 しかし純粋な青年をとてもうまく演じているなぁ、と
 まずは関心。
 私はウォーターボーイズからずっと彼のファンですが、
 どちらかというと、東野作品において演じられているような
 ナイーブな若者を演じる彼が好きなのです。

 本当は小説を読んでからエントリーしようと思ったのだけど、
 映画自体が、すごく強いメッセージを投げかけてくれるものなので
 あえて読まずにこれを書いています。

 この映画のテーマはたったひとつ。
 それは「償い」と「赦し」です。
 それを「犯罪被害者」と「犯罪加害者」という
 ありがちな二項対立ではなくて
 「犯罪被害者」と「犯罪加害者」と「加害者の家族」と「関係のある人々」
 といったように、
 より拡がりのある関係の中で捉えようとした
 そんな映画です。
 その意味では、全ての人々に何かを必ず投げかけてくれる
 そんないい映画だと思います。

 物語のストーリーは
 主人公・直貴と
 罪を犯した兄・剛志の「手紙」でのやりとりを軸に、
 直貴の周囲の多くの人々と
 彼との交流を描いていきます。
 この映画のテーマは
 「償い」と「赦し」だとぼくは書きましたが、
 この2人、それぞれがそれぞれに
 「いかに償えるか」を考えながら日々を過ごしています。
 やがて直貴が、周囲の人々からの差別から
 自身の生き方、あり方を考え・・・というストーリー。

 この映画、さまざまな登場人物の心の機微を
 とても丁寧に描いていて
 その点にすごく好感を持ちます。
 しかし、先のテーマを考えたとき、
 私には印象に残ったふたつのシーンがあります。
 
 物語の前半に描かれるのは
 「犯罪加害者への差別」という問題。
 映画を観るわたし―加害者でも被害者でもその家族でもないわたし―は
 自身の中にある「加害者への差別心」と
 痛みを感じながら、対峙することを迫られていきます。

 その中で、直貴が勤めた電器会社の会長の
 「加害者の家族が差別されるのはあたりまえなんだ」
 という、ある意味でわかりやすすぎる言葉。
 これが一つ目のシーンです。

 それは自己防衛本能なのだ、というこの会長は、
 直貴に対して限りなく厳しい
 しかし同時にやさしい言葉をかけていきます。
 「君はでもここからはじめなければならない。
 そしてすでに君には、心を通わせている人がいるじゃないか。
 あとはそれをひとつずつ増やしていけばいいのだ」と。

 直貴にとって会長の言葉は「腑に落ちる」ものではなかったに違いない。
 だからこそ彼は、
 その後も、「加害者の家族」として差別を受けると言う現実を
 けっして上手に処理することができずにいます。
 やがて彼は由美子と結婚し、ふたりの間に娘ができます。
 そしてその二人にも差別が及ぶとき、
 彼はついに兄を「捨てる」決心をします。
 それが「加害者の家族」であることを「捨てる」ことにつながり、
 そのことで彼は愛する家族を守ることができると
 このときは強く信じていたから。
 そして直貴は、剛志に最後の手紙を書きました。
 もう兄貴とは縁を切る、赦して欲しい、と。

 物語の終盤、
 直貴は―おそらくそれを唯一の兄への「償い」と信じて―
 事件後、はじめて被害者の息子の家を訪れます。
 これが印象に残った2つ目のシーンです。

 そこで直貴に浴びせかけられたのは拒絶の言葉でしたが
 そのとき直貴、剛志からの「最後の手紙」を読むことになります。
 そこには、直貴からの決別の手紙を受けて、
 直貴や被害者家族の男性の苦境に思い至らなかった自分の不明を恥じ、
 そのことを心から悔い、
 それゆえ「謝罪の手紙」を最後にするという
 剛志の決意が記されていました。
 この手紙に目を落とし、涙を流す直貴に、
 被害者家族の男性は意外な言葉をかけます。
 「もういいだろう。終わりにしよう」と。

 「6年間、欠かすことのなかったこの手紙は、
 彼にとっての般若心経だったんだ」
 
 ここで描かれるのは
 われわれが思い描く通俗的な「謝罪」の無意味さだと思います。
 毎月欠かすことなく6年間書書き続けられた手紙は、
 被害者にとっては、端的に、加害者の「正当化」でしかない、
 わたしたちが欲しいのはそんなものではない。
 「般若心経」という比喩はそのような気持ちの現われでしょう。

 しかしだからこそ、
 そのことに初めて気づいた剛志を見て
 彼は「もういい。終わりにしよう」といったのでしょう。
 そして直貴に「お互い、長かったな」と語りかけます。

 これはつまり、彼自身も何かに「償い」をし続けていたことを意味するのでしょう。
 少なくとも私にはそのように思えました。
 それは、老母を一人きりで生活させていたことへの悔いかもしれないし、
 あるいは、加害者である剛志を、その家族でしかない直貴を
 受け入れられない自分へのいらだちに対するものかもしれない。
 たぶんその両方、あるいはもっと多くの
 おそらく自分でも説明がつかない複雑な気持ちのはずです。

 しかし彼自身のその苦境に
 加害者である剛志がはじめて気づいたことを知ったとき、
 ―それは皮肉にも、剛志が「謝罪」を「やめる」と決意したときでしたが
 そのことをもって彼はきっと思ったのでしょう。
 「報われた」と。
 言い方は悪いかもしれないですが、
 人が感じるかもしれないこういった自己中心的ともいえる感情を肯定する回路が
 東野作品の多くに共通して流れているように、私は思っています。
 つまり彼自身も、そのときはじめて知ったのではないでしょうか。
 剛志や直貴の苦境の本当の意味を。

 だから、なのでしょう。
 厳密には彼は「赦す」とは言っていません。
 「もういい」
 「終わりにしよう」
 それはまるで自分自身に問いかけるような言葉でした。
 
 だから言い方を変えれば
 この3人は「同志」だったのでしょう。
 「友情」などというきれいなものではなく、
 憎しみとコンプレックスと自己正当化
 そういった感情と向き合ってきた、という意味での。
 そしてそのことはたぶん 
 「加害者」と「被害者」などというわかりやすいカテゴリー化を
 まるであざ笑うかのように相対化します。
 それが「お互い長かったな」という言葉の意味だったのではないか、と
 私には思えたのでした。

 物語の最後
 舞台に立ち、複雑な表情を浮かべながら
 「バカだけど、でも、たったひとりの兄貴だから・・・
 しょうがないですよねぇ」
 と直貴は言います。
 それを、両手を合わせながら
 流れる涙を拭こうともせずに見つめる剛志。
 ふたりの間の埋まりきらない溝が
 光と影が
 巧妙な舞台装置の下で描かれるとても美しいシーンです。
 ここでも直貴は「赦す」とは言いません。
 彼が言ったのは「しょうがない」という言葉でした。

 「償い」と「赦し」
 この映画で描かれたのは
 そういった理想的な人のあり方への
 明確なアンチテーゼです。
 そして映画は最後、私たちに
 「加害者」でも「被害者」でもなく、「差別者」である私たちに
 語りかけてくるような気がするのです。
 「お前らはいったいどこに位置取るのか」と。
 「償う」のか「赦す」のか
 「もういい」のか「しょうがない」のか。
 あるいは別の生き方を探すのか。

 観るものに突きつけられたこの問いは
 深く、痛く、そして切ないものなのです。


 *5月30日訂正 「般若信教」→「般若心経」
 うー、完全な思い込みでの間違えでした。いかん、いかん。
 友人からの指摘で変更。
 ありがたいことです。^^




| 2007.05.24 Thursday (18:43) | 映画を観ました | comments(1) | trackbacks(0) |
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